基礎研究
安定同位体分析は、食品や化成品以外でも様々な分野で有用です。ここでは、一例として野生動物の生態研究について簡単にとりあげます。
野生動物の食性解析
体毛や筋肉、血液といった生き物のからだは、
食べ物から得られた多くの物質からできています。中でも窒素や炭素はたくさん含まれ、大切な役割を果たしています。
それらの安定同位体比を測定することにより、動物が何を食べていたのかを推定することが可能です。
ツキノワグマを例にとってみましょう。
ツキノワグマは植食性の強い雑食性の動物です。ところが近年、人里に下りてきて農作物や残飯を食べるクマが問題となっています。
里の食べ物(特にトウモロコシや残飯など)は、山の動植物に比べて高い窒素・炭素同位体比をもつことがわかっています。
そのため、捕まえたクマの体毛の炭素・窒素同位体比を測定すると、里の食べ物を食べたクマは、
山にいるクマよりも高い炭素・窒素同位体比をもち、そのクマが実際に里への被害と関連しているのか、調べることができます。
乗鞍のクマは何を食べていた?
- 2009年秋・岐阜県乗鞍岳で発生した人身事故の検証 -
昨年9月に岐阜県乗鞍岳で起きたツキノワグマによる人身事故を覚えていますか?
事故発生直後、「なぜ多くの人々でにぎわう観光地に突然クマが出没したのか?」という疑問に、
「通常ツキノワグマはいないはず、観光客らや食堂から出る残飯に餌付いていたのではないか」、
などとの報道がなされていました。事故の再発防止に向けて、事故原因の究明は必要不可欠です。
当社では、NPO法人信州ツキノワグマ研究会の分析依頼により、捕殺されたクマの体毛の炭素・窒素安定同位体比の測定を行い、 補殺個体が実際に残飯等を食べていたのかを推定しました。クマの体毛は毎年春から秋まで食性を記録しながら成長し、 翌年の秋までに抜け落ちます。補殺個体はまだ前年の体毛が残っており、過去2年分の食性を調べることができました。 分析の結果、このクマの炭素・窒素同位体比は、人里で残飯を食べていたクマとは異なり、北アルプス周辺に生息する他のクマと同様の傾向を示していました。 この結果は胃内容物の分析結果とも一致しており、過去2年間、残飯等に依存した形跡はないことが分かりました。 以上のことから、このクマは残飯等に誘引されて観光地に出没したのではなく、北アルプスに生息する自然のクマであったと考えられます。
検査一覧
- 様々な動物の生態研究や過去の試料にも使えます
- 安定同位体分析は、例に挙げたツキノワグマ以外にも、様々な動物の食性解析や生態系解析、人間の食生活の研究にも用いることができます。 また剥製や標本などの博物館資料にも適用可能ですので、過去の生態研究にも役立ちます。“こんな試料を測定してみたい”など、 ご興味がありましたら、ぜひご相談ください。
